「自社ツールだけでは足りない」を武器に変える。専業ツールベンダーのためのアライアンス戦略
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本記事は 内田 智英(株式会社アイリッジ ビジネスパートナー部 副部長 兼 アライアンス戦略グループ グループ長)の寄稿によるものです。
MA、会員管理、ポイント、決済、CRM、セキュリティ、AI――。
現在、企業向けのITサービスには、それぞれの領域に特化した優れたツールやサービスが数多く存在します。
一つひとつのプロダクトを見ると、非常に高い専門性を持っている。
しかし、顧客企業が抱えている課題は、必ずしも一つの領域だけで完結するものではありません。
「MAを導入したい」
「ポイントシステムを刷新したい」
「会員基盤を整備したい」
という相談の背景には、
「顧客との接点を増やしたい」「LTVを高めたい」「デジタルとリアルをつなぎたい」「顧客データを活用したい」
といった、より大きな事業課題があります。
そう考えると、専業ツールベンダーにとって、自社だけですべてを解決しようとする必要はありません。
むしろ、自社にはない強みを持つ企業と組むことで、顧客に提供できる価値を広げ、結果として自社の事業そのものを拡大できる可能性があります。
私はこれまで、MA、会員システム、決済、セキュリティ、AIなど、様々な領域のツールベンダーを含む50社を超える企業とパートナーシップを構築してきました。
その経験から感じているのは、
「自社ツールをどう売るか」だけではなく、「自社ツールを何と組み合わせれば、新しい価値を作れるか」を考えることが、専業ツールベンダーのアライアンス戦略では重要だということです。
「代理販売パートナー」を増やすだけでは、なかなか伸びない
専業ツールベンダーがパートナー戦略を始める際、よくあるのが、
「自社サービスを販売してくれる会社を増やそう」
という考え方です。
もちろん、販売チャネルを増やすことには意味があります。
しかし、これだけではパートナーが増えても、なかなか案件が増えないことがあります。
契約時には、
「ぜひ一緒にやりましょう」
となる。
ところが、その後、
「何か案件があれば紹介します」
で止まってしまう。
これは、パートナー側からすると、自社の商品を新たに覚えて、営業して、提案する理由が十分にないからです。
特に専業ツールの場合、パートナー企業側にも既に複数の商材があります。
その中で、
「なぜ、あなたのサービスを提案するのか?」
が明確になっていなければ、自然に案件が生まれることはなかなかありません。
「売ってもらう」から「一緒に売る」へ
そこで重要になるのが、パートナーに単純に販売してもらうのではなく、
「一緒に売れるものをつくる」
という発想です。
例えば、
MA × 会員基盤
ポイント × アプリ
決済 × CRM
AI × 顧客データ
など。
一社の商品をもう一社が販売するのではなく、
両社のサービスを組み合わせることで、初めて成立する提案
をつくります。
そうすると、パートナー側にもメリットが生まれます。
自社だけでは提案できなかった案件に入れる。
既存顧客に新しい提案ができる。
自社サービスの価値も高められる。
新しい市場にアクセスできる。
つまり、
「あなたの商品を売ってください」ではなく、「一緒にやった方が、お互いのビジネスが広がる」
という状態を作ることが重要です。
顧客課題から逆算すると、組むべき相手が見えてくる
では、どのような企業と組めばいいのでしょうか。
私は、まず「自社と相性の良さそうな会社」を探すのではなく、
顧客課題から逆算する
ことが重要だと考えています。
例えば、ある企業が、
「アプリの利用者を増やしたい」
と考えているとします。
この課題に対して、アプリベンダーだけで考えると、
「アプリを改善しましょう」
という提案になります。
しかし、顧客の課題をさらに掘り下げると、
- 会員データを活用できていない
- 購買データと連携できていない
- ポイントを活用したい
- 顧客ごとに情報を出し分けたい
- キャンペーンの効果を測りたい
といった課題が見えてくるかもしれません。
そうすると、
アプリ × 会員基盤 × ポイント × MA
という複数企業によるソリューションが見えてきます。
ここで初めて、
「では、誰と組むべきか」
という問いが出てきます。
私自身が経験した「専門性の組み合わせ」
私自身、現在の会社で様々な領域の企業とパートナーシップを構築してきました。
例えば、金融機関が展開するBaaSに対して、当社が得意とするスマートフォンアプリの企画・開発・グロース支援や、アプリに組み込むマーケティングソリューションを組み合わせ、共同で顧客へ提案する取り組みです。
金融機関には金融サービスやBaaSという強みがある。
当社にはアプリやマーケティングという強みがある。
それぞれを単独で売るのではなく、
「組み合わせることで顧客にどんな新しい価値を提供できるか」
を考える。
結果として、実際に複数の案件を受注し、サービスとしてリリースするところまでつなげることができました。
また、流通・小売領域で事例ができ始めていたO2Oという考え方を、金融業界向けに再構成してパートナー企業に企画として持ち込み、共同で展開した経験もあります。
ここでも、既存の商品をそのまま販売したわけではありません。
既存の知見を別の市場の課題に当てはめ、パートナーと新しい提案を作る。
このような取り組みが、新しいアライアンスのきっかけになります。
「競合になるかもしれない会社」とも組めるか
専業ツールベンダー同士で協業を考える際、避けて通れないのが、
「この会社は将来的に競合になるのではないか」
という問題です。
確かに、すべての企業と無条件に組めばよいわけではありません。
ただし、顧客課題を分解してみると、競合でありながら補完関係を作れるケースもあります。
例えば、
A社は顧客データに強い。
B社はMAに強い。
C社はポイントに強い。
D社はアプリに強い。
それぞれが単独では競争する部分を持っていたとしても、顧客から見れば、
「全部必要」
ということがあります。
その場合、
「どちらが顧客を取るか」
ではなく、
「どうすれば一緒に大きな案件を作れるか」
という発想に変えることができます。
もちろん、商流、顧客情報、利益配分、責任範囲など、事前に整理すべきことはあります。
しかし、最初から「競合だから組めない」と決めてしまうと、大きな機会を失うことがあります。
パートナーシップでは「会社」だけでなく「人」を見る
もう一つ、私が大切にしていることがあります。
それは、会社同士だけでなく、人同士の関係をつくることです。
50社を超える企業とのパートナーシップを構築してきましたが、契約書だけで活性化したパートナーはほとんどありません。
むしろ、
- 一緒に顧客へ訪問する
- 両社で勉強会を開催する
- 営業だけでなく技術・企画担当者も交流する
- リアルの場で懇親会を行う
- お互いの会社やサービスを理解する
といった活動を重ねることで、
「この案件なら、あの人に相談してみよう」
という関係が生まれてきます。
パートナーシップを動かすのは、会社の戦略だけではありません。
「この人と一緒に仕事をしたい」
と思える関係が、実際の案件を生むことも多いのです。
0→1の次は「1→10」
アライアンスでは、最初の1件を作ることが非常に難しい。
しかし、1件できれば、それを「型」にできる可能性があります。
例えば、
「この業界で売れる」
「この顧客課題に刺さる」
「この組み合わせなら提案しやすい」
ということが分かる。
そこから、
1社の成功事例 → 複数顧客 → 複数パートナー
へ展開していきます。
私自身も、パートナープログラムを0→1で立ち上げた後、パートナーを50社超まで拡大し、実際に複数の共同案件・売上につなげてきました。
さらに、アライアンスを自分一人の活動にせず、社内のメンバーを増やし、パートナー開拓や協業推進のやり方をチームに広げてきました。
つまり、
0→1で仕組みを作る。1→10でパートナーと成果を増やす。そして、組織として再現できるようにする。
ここまでが、アライアンス戦略だと考えています。
「パートナー企業数」ではなく「新しい市場」をKPIにする
専業ツールベンダーがアライアンスを考える際、
「今年は10社パートナーを増やす」
という目標を置くことがあります。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
ただ、最終的に目指すべきなのは、
パートナー数の増加ではなく、パートナーによって自社の事業領域が広がること
ではないでしょうか。
例えば、
「今まで入れなかった業界に入れるようになった」
「大手企業との取引が増えた」
「自社だけでは獲得できなかった大型案件を受注できた」
「新しいソリューションを作ることができた」
「既存顧客へのクロスセルが増えた」
こうした成果こそ、アライアンスの価値だと思います。
「自社の弱み」は、パートナーにとってのビジネスチャンスかもしれない
専業ツールベンダーにとって、
「自社には○○がない」
ということは、必ずしも弱みではありません。
むしろ、
「○○に強い企業と組む余地がある」
ということです。
自社がすべてを持つ必要はない。
自社がすべてを作る必要もない。
大切なのは、
自社が何に強く、何が足りないのかを理解し、その足りない部分を持つ企業と組んだときに、どんな新しい価値が生まれるのかを考えること。
その視点に立つと、アライアンスは単なる販売チャネルではなく、事業を拡張するための経営戦略になります。
おわりに
MA、ポイント、会員管理、決済、CRM、セキュリティ、AIなど、専門性の高いツールを提供する企業は、今後ますます重要になると思います。
一方で、顧客企業の課題は複雑化しています。
一つのツールだけで、すべての課題を解決することは難しくなっています。
だからこそ、
「自社だけで完結させる」のではなく、「自社の強みを軸に、他社の強みを組み合わせる」。
その発想が、専業ツールベンダーの次の成長につながるのではないでしょうか。
私自身、これまで50社を超える企業とのパートナーシップを構築し、プロダクトのストック売上だけでなく、数千万円~億円規模の受託開発案件、コンサルティング案件、プロモーション支援案件など、様々な形でパートナー経由の売上拡大に携わってきました。
単に「パートナー候補を紹介する」のではなく、
「誰と組むのか」「何を一緒につくるのか」「どう最初の1件を作るのか」「どう1→10へ広げるのか」
まで考える。
それが、私がこれまで実践してきたアライアンス戦略です。
「自社ツールだけでは足りない」
そう感じたときこそ、もしかするとそこに、次の成長のヒントがあるのかもしれません。